今朝、夢を見た。
そこはおそらく森であった。地面には腐った落ち葉、その上を這うように、何年も沈殿したままの古く湿った空気。 木がたくさん生えていた。けれども、わたしには分からない。のっぺりとした樹皮で、まるで影でぐるりとその胴体を巻いてしまったかのような、木であった。 空は、沈黙を続ける木々の、墨を塗りたくったような葉の間にいた。ただいただけで、それは、たぐりよせられる糸のように機械的に、静かに流動していた。 森は、視界の限界を超え、存在しているらしい。その先は灰色に霞んでいた。 森には靄のようなものが立ち込め、不快に肌をくすぐり、隙間という隙間に流れ込もうとする。靄は微細な振動を伴い、幽かに緊張している。
こうやって森を観察している間わたしはただ突っ立っていたわけではない。踏めばじゅくりとわずかな水分を出す落ち葉の上を早足で歩いていた。不安が心臓に負荷をかけ、身体が 腐った土の中へ沈みそうなくらい、重い。
(なぜ、歩いているのだろう)
ほんの数分後、のっぺりとした木のうろに、何かがいた。うろの中は深い藍の色を帯び、何かは黒く、やはり木々と同じくのっぺりとしていた。
その何かに目はついていないのに、わたしは確かに何かから視線を感じた。それは焦点の定まらない視点でわたしを見つめ、 肉と骨を突き破って見透かすかのように心臓の位置でとまりぴくりとも動かなくなった。
怖かった。
何かは、じっとわたしの高まっていく鼓動を凝視していた。それは嫉妬でも、驚きでも、羨望でも、何でもない、ただわたしの心臓に強くねじ込まれ、穴が開きそうだった。
このままでは死ぬのではないだろうか、靄が、毛穴や鼻、口からわたしの身体にするりと入り込み、むせかえるようだった。頭は激しく痛み、脳がぎりぎりとしめつけられる。 視界が黒く焦がされていくようだった。

何かはつぶやいた。
「わたしたちは ある」
「あなたたちは いてはならない」
「わたしたちは ある」
視界は焦げ付き、落ちていった。